EPISODE 07

月面権利書。

酸素は守られた。水も電力も、生活改善台帳の外に置かれた。 その直後、誰かが古いメモ用紙を見つけた。そこには、こう書かれていた。 月面一区画。

オービット・ハウスと月を思わせる宇宙ステーションの表紙アート
MISSION LOG

それは、
ただの紙だった。

生活改善台帳の整理中、ダイチは古いメモ用紙を見つけた。 角は少し折れ、赤いペンのインクはにじみ、 裏には誰かの買い物メモが残っていた。

しかし、表には大きくこう書かれていた。

「月面一区画」

地球窓の夜、月と地球を見ながら静かに考える宇宙ステーション

ダイチは、その紙を最初に笑った。

宇宙銀行、エアロック横ATM、苺先物、酸素残高。 ここまで来れば、多少の紙では驚かない。 それに、メモ用紙に書かれた「月面一区画」が、 本当に何かを意味するはずがない。

だから、彼は何気なく言った。

「これは、台帳に入れなくていいですね」

その瞬間、ミノルが顔を上げた。

「待ってください。月面一区画って、どのあたりですか?」

レイは、静かに目を閉じた。 彼女はこの流れを知っていた。 誰かが冗談を見つける。 誰かが意味を与える。 ダイチが台帳に入れる。 黒川管制官が眠れなくなる。

黒川の声が、数秒遅れて地球から届いた。

「その紙を、すぐ画面に映してください」

紙は資産になるのか

メモ用紙の内容は、こうだった。

月面権利書
本紙を持つ者は、月面一区画について、夢を見る権利を有する。
面積:気分による
場所:月のいい感じのところ
期限:人類が飽きるまで
発行者:読めない署名

黒川管制官は、画面の向こうで額を押さえた。

「権利書ではありません」

ミノルは言った。

「でも、夢を見る権利はあります」

レイは、少しだけ笑った。 ダイチは、その笑いを見て、台帳を閉じた。 今回だけは、記録より先に考える必要があった。

MANGA SEQUENCE

紙切れは、
月より遠くまで話を広げた。

地球窓と青い惑星、月を思わせる静かなポスター
PANEL 01

月面一区画。

法的には何もない。 でも、言葉としては強すぎた。

「場所:月のいい感じのところ」

地球と月を見ながら考える星野ダイチ
PANEL 02

資産ではなく、
願いだった。

価値があるとすれば、それは所有の価値ではなかった。 遠くを見て、いつか行けるかもしれないと思う価値だった。

「これは買うものではなく、思い出すものです」

宇宙ステーションから地球と月を見て人間を考える漫画アート

CREW REACTION

乗員たちは、
それぞれ別の月を見た。

DAICHI

星野ダイチ

最初は台帳に入れようとした。 しかし、レイの視線に気づき、手を止める。 月面はスナックでも工具でもない。

「資産分類は、しません」

REI

月森レイ

権利書ではない、と正確に言う。 けれど、夢を見る権利という言葉だけは否定しない。

「所有ではなく、願いなら」

MINORU

佐伯ミノル

すぐに月面の間取りを考え始める。 枕司令官には、すでに月面支部の執務室が用意されているらしい。

「月面にも会議室は必要です」

地球側、
今回は先回り。

黒川管制官は、学んでいた。 宇宙銀行のときは遅れた。 エアロック横ATMのときも遅れた。 酸素残高では、ぎりぎり間に合った。

だから今回は、最初に言った。

「月面権利書という表現は、正式な権利を意味しません」

ダイチはうなずいた。 レイもうなずいた。 ミノルだけが、小さく手を上げた。

「夢を見る権利は、残りますか?」

困り顔のミッション管理局担当者
LEGAL NOTE

月面権利書は、
権利書ではありません。

黒川管制官は、短い注意書きを作った。 それは地球側のためでもあり、 オービット・ハウスの乗員たちのためでもあった。

「月は、メモ用紙で所有できません」

赤いスタンプ付きの書類と漫画ページ

SCRIPT SAMPLE

第7話、
名場面。

SCENE

地球窓・月が見える夜

窓の外に、地球の青と月の白が見える。 古いメモ用紙が、透明な袋に入れられて壁に貼られている。

黒川:「念のため確認します。これは正式な権利書ではありません」

ダイチ:「台帳にも入れません」

レイ:「所有ではありません」

ミノル:「では、願いとして保管します」

黒川:「……願いとしてなら、地球側も反対しません」

枕司令官:「月面支部の件は継続審議です」

月!

DEED STATUS

月面権利書・確認表

正式名称 月面一区画メモ
法的効力 なし
金融価値 なし
夢を見る価値 あり
台帳記録 資産としては不可
保管場所 地球窓の横
地球窓と青い惑星、月を思わせるポスター
地球窓の前で静かに立つ月森レイ
HEART

所有ではなく、
あこがれだった。

月面権利書は、もちろん権利書ではなかった。 でも、その紙がステーションで大切にされたのは、 誰かが月を持ちたかったからではない。

遠くを見る理由がほしかった。 いつか行けるかもしれない場所を、 ただの画面ではなく、自分たちの未来として見たかった。

「月は持てない。でも、目指すことはできる」

枕司令官のキャラクターアート

枕司令官、
月面支部を申請。

すべてがきれいに収まりかけたとき、 ミノルは新しい紙を壁に貼った。

「枕司令官 月面支部 設立準備室」

黒川管制官は、すぐに反応した。

「準備室を設立しないでください」

レイは笑った。 ダイチも笑った。 ミノルは、書類の下に小さく追記した。

「夢として」

地球窓の横

月面権利書は、最終的に地球窓の横に貼られた。

ただし、レイの提案で、表題は変えられた。

旧表題:月面権利書
新表題:いつか行きたい場所

ダイチは、その変更を気に入った。 台帳には入れなかった。 残高にも、資産にも、担保にも、分類しなかった。

ただ、地球窓の横に貼った。 誰でも見られる場所に。

「これは、みんなの未来欄です」

黒川管制官は、その言葉を議事録に残した。 今回は、消さなかった。

OFFICIAL NOTICE

月面一区画について

オービット・ハウスに掲示された「月面一区画」は、 法的権利、金融商品、資産、担保、所有権を意味しない。 ただし、乗員が未来を語るための象徴として保管することは認める。

「夢としてなら、承認します」

NEXT EPISODE

次回、
右手袋のササキさん。

Mission Log: 月は資産ではなかった。だが、ササキさんはまだ何かに反対している。