オービット・ハウスには、地球窓と呼ばれる窓がある。
正式名称ではない。 だが、誰も正式名称で呼ばなかった。 そこから見える地球は、画面よりも静かで、写真よりも近く、 それでいて、手を伸ばしても絶対に届かない。
その夜、最初に窓の前に来たのはレイだった。
彼女は何も言わずに、窓の近くに浮かんだ。 そのあとダイチが来た。 端末を持っていなかった。 それだけで、少し珍しかった。
最後にミノルが来た。 枕司令官を抱えていた。 右手袋のササキさんも連れてきた。 レイは何も言わなかった。 ダイチも、何も言わなかった。
「今日は、会議ではありません」
ミノルは、少し照れたように言った。
「ただ、みんなで地球を見るだけです」
地球を見る
窓の外では、地球がゆっくりと回っていた。 雲があった。 夜の街の光があった。 海が黒く、陸がかすかに光っていた。
そこには、彼らが出発した場所がある。 仕事を残してきた場所。 言えなかったことがあった場所。 帰りたい場所。 そして、少しだけ離れて初めて愛しくなる場所。
ダイチが言った。
「地球って、残高にできませんね」
レイは、横目で彼を見た。
「しないでください」
ダイチは笑った。
「しません」