最初、この場所は任務だった。
そこには番号があり、手順があり、報告義務があり、 失敗してはいけない作業があった。 人間は乗員であり、時間はスケジュールであり、 食事は補給品であり、会話は通信ログだった。
でも、いつからか少し変わった。
フリーズドライ苺が消えた。 ラズベリーパイが台帳になった。 台帳が宇宙銀行と呼ばれた。 収納箱がATMになりかけた。 レイが本当の自分を話した。 ミノルがレンチ隊長と枕司令官を紹介した。 酸素は笑いの外に置かれた。 月面権利書は「いつか行きたい場所」になった。 ササキさんは未承認のまま、みんなを守った。
「任務だった場所に、思い出が増えました」
ダイチがそう言うと、レイは窓の外を見た。
「思い出が増えると、片づけが難しくなります」
ミノルはうなずいた。
「枕司令官も、片づけは苦手です」
地球側の黒川管制官は、少し間を置いて言った。
「そこは改善してください」
三人は笑った。 その笑い方が、最初のころとは少し違っていた。