月森レイは、いつも正確だった。 彼女の作業記録には無駄がなく、判断は速く、 手順書から外れるときでさえ、理由が明確だった。
だから乗員たちは、レイが静かに話し始めたとき、 最初はそれも何かの業務連絡だと思った。
「これは、故障報告ではありません」
その一言で、全員が顔を上げた。
地球では言えなかったこと
レイは長い訓練を受けてきた。 体力、判断力、機械操作、緊急対応、チームワーク。 あらゆる試験を通過し、あらゆる審査に耐えた。
だが、彼女にはいつも一つだけ、審査されなかった部分があった。 自分が本当は何者なのか。 それを誰に、いつ、どう言うべきなのか。
地球では言えなかった。 地球には近すぎる人が多すぎた。 名前、履歴、古い書類、古い期待。 すべてが重かった。
でも宇宙では、重いものが少し浮く。
「私は、私の名前で生きたい」
ステーションは静かだった。 空調音だけが、いつも通りに鳴っていた。
ダイチは何か言おうとして、やめた。 ミノルは枕司令官をそっと後ろに隠した。 地球側の黒川管制官は、画面の向こうで目を細めた。
そして黒川は、いつものように一番まじめなことを言った。
「了解しました。まず、あなたの言葉をそのまま記録します」