EPISODE 04

ひとりぼっちの司令官。

佐伯ミノルは、ただ一人でステーションを守ることになった。 最初は静かだった。次に寂しくなった。そして彼は、レンチに名前をつけた。

宇宙ステーションにひとり残された佐伯ミノルと浮かぶ工具たち
MISSION LOG

一人勤務、
三日目。

ドッキング延期。通信遅延。交代クルーの到着未定。 オービット・ハウスには、佐伯ミノルだけが残っていた。

最初の一日は静かだった。 二日目は少し寂しかった。 三日目、彼はレンチに話しかけた。

「レンチ隊長、どう思います?」

誰もいない宇宙ステーションと地球の見える窓

佐伯ミノルは、孤独に弱い人間ではなかった。 そう本人は思っていた。

訓練では、一人作業もこなした。 長時間の沈黙にも耐えた。 閉鎖環境テストでも、最後まで明るく振る舞った。 だが訓練室の沈黙と、地球の上を秒速七キロで回る箱の中の沈黙は、 少し種類が違った。

「こちらミノル。ステーション異常なし。人間だけ少し変です」

地球からの返答には、いつも少し遅れがあった。 その数秒の遅れが、日を追うごとに長く感じられた。 返事が来るまでの間に、彼の頭の中では会話が進んでしまう。

最初の友だち

最初に名前を与えられたのは、レンチだった。 理由は簡単だった。いつもそばにあり、頼りになり、 何も言わないところが上官らしかったからである。

ミノルはレンチを壁のマジックテープに固定し、 その下に小さな紙を貼った。

レンチ隊長
工具管理責任者。返却期限に厳しい。口数は少ない。

次に、枕が司令官になった。 柔らかいが、存在感があった。 それに、ミノルの首を何度も救ってきた。

その夜、彼は初めて正式な会議を開いた。

「本日の議題は、孤独対策と未返却テープ問題です」

出席者は、ミノル、レンチ隊長、枕司令官、醤油博士、 そして右手袋のササキさんだった。

MANGA SEQUENCE

会議は、
真剣に始まった。

レンチ隊長を紹介する漫画パネル
PANEL 01

レンチ隊長。

返却期限に厳しい。沈黙が重い。 そして、だいたい正しい。

「返却期限を過ぎています」

枕司令官が浮かぶ漫画パネル
PANEL 02

枕司令官、
着任。

司令官は柔らかかった。 しかし、判断は固かった。

「まず休みなさい。疲れた人間はミスをします」

浮かぶ物たちと会議する佐伯ミノル

IMAGINARY STAFF

オービット・ハウス
臨時会議メンバー。

レンチ隊長
工具管理 隊長

レンチ隊長

工具管理責任者。物をなくす人間に厳しい。 一言も話さないが、ミノルには一番よく聞こえている。

枕司令官
司令官 休息担当

枕司令官

柔らかい上官。休息を命令できる唯一の存在。 ミノルが無理をすると、無言で顔にぶつかってくる。

醤油博士
哲学 食卓

醤油博士

食事前にだけ現れる哲学者。 深いことを言うが、ほとんどの結論は「ご飯は大事」に帰着する。

右手袋のササキさん
法務 反対担当

右手袋のササキさん

すべてに反対するコンプライアンス担当。 宇宙銀行にも、枕司令官の権限にも、だいたい反対。

自販機と呼ばれるスナック棚
補給 相談役

自販機ではない棚

スナック棚。ミノルが「自販機先輩」と呼ぶため、 だんだん相談相手のような立場になる。

顔のように見える宇宙銀行端末
台帳 不安定

宇宙銀行端末

ダイチの台帳端末。ミノルが一人でいる間に、 まるで人格があるように扱われ始める。

地球側、
かなり心配。

黒川管制官は、ミノルのログを聞いていた。 最初は疲労の兆候を疑った。 次に、閉鎖環境ストレスを疑った。 最後に、ログの内容が妙に実務的であることに気づいた。

ミノルの架空会議は、未返却工具の一覧を作り、 睡眠不足の原因を分析し、宇宙銀行の利用規約にまで意見を出していた。

黒川:「それは誰の意見ですか?」

ミノル:「右手袋のササキさんです」

ミノルのログを聞いて心配するミッション管理局

SCRIPT SAMPLE

第4話、
名場面。

SCENE

居住区画・臨時会議

ミノルは壁に貼った紙の前に浮いている。 紙には「第3回 オービット・ハウス臨時会議」と書かれている。

ミノル:「出席確認。レンチ隊長」

ミノル:「枕司令官」

ミノル:「醤油博士」

ミノル:「右手袋のササキさん」

黒川管制官:「こちら地球。私は出席者に含まれていますか?」

ミノル:「地球代表として、オブザーバー参加です」

黒川管制官:「……了解しました」

会議中!

地球窓の前で静かに座る佐伯ミノル
HEART

笑いは、
孤独の宇宙服だった。

ミノルは壊れたわけではなかった。 彼は、自分を守るために物語を作った。

レンチ隊長も、枕司令官も、醤油博士も、 本当は彼の中にある判断力、休みたい気持ち、 食事を大切にしたい心だった。

「ひとりでも、全部ひとりで抱えなくていい気がしたんです」

架空会議が本物の空調フィルター問題を解決する場面

そして会議は、
本当に役に立った。

右手袋のササキさんが、宇宙銀行端末の配置に反対した。 理由は「通路の安全性に問題がある」。 ミノルは最初、笑った。

しかし確認すると、端末のケーブルが空調フィルターのアクセスパネルを 半分ふさいでいた。そこには小さな警告灯が点滅していた。

架空のコンプライアンス担当が、本物の故障を見つけた。

「ササキさん、あなた正しかったです」

MEETING MINUTES

第3回 臨時会議

議長 枕司令官
工具管理 レンチ隊長
法務 右手袋のササキさん
哲学 醤油博士
結論 寝る前にフィルター確認
OFFICIAL NOTE

ミッション管理局より

佐伯ミノルの心理状態について継続観察します。 なお、臨時会議により空調フィルター異常が早期発見された件については、 評価します。

「ただし、枕司令官を正式役職としては認めません」

返事が届くまで

その夜、ミノルは地球窓の前に浮いていた。 返事はまだ来なかった。 けれど、前よりも少し静けさが怖くなかった。

レンチ隊長は壁にいた。 枕司令官は胸の前で浮いていた。 醤油博士は食事袋の横にいた。 ササキさんは右手袋として、当然のように右側にいた。

ミノルはログを録音した。

「こちら佐伯ミノル。ステーション異常なし。会議も無事終了。人間は、たぶん大丈夫です」

数秒遅れて、黒川管制官の声が届いた。

「こちら地球。聞こえています。大丈夫です」

ミノルは笑った。 それから、枕司令官の命令に従って、少し眠った。

NEXT EPISODE

次回、
地球からの監査。

Mission Log: 架空の会議が本物の問題を解決した。地球側は評価したが、安心はしていない。