佐伯ミノルは、孤独に弱い人間ではなかった。 そう本人は思っていた。
訓練では、一人作業もこなした。 長時間の沈黙にも耐えた。 閉鎖環境テストでも、最後まで明るく振る舞った。 だが訓練室の沈黙と、地球の上を秒速七キロで回る箱の中の沈黙は、 少し種類が違った。
「こちらミノル。ステーション異常なし。人間だけ少し変です」
地球からの返答には、いつも少し遅れがあった。 その数秒の遅れが、日を追うごとに長く感じられた。 返事が来るまでの間に、彼の頭の中では会話が進んでしまう。
最初の友だち
最初に名前を与えられたのは、レンチだった。 理由は簡単だった。いつもそばにあり、頼りになり、 何も言わないところが上官らしかったからである。
ミノルはレンチを壁のマジックテープに固定し、 その下に小さな紙を貼った。
工具管理責任者。返却期限に厳しい。口数は少ない。
次に、枕が司令官になった。 柔らかいが、存在感があった。 それに、ミノルの首を何度も救ってきた。
その夜、彼は初めて正式な会議を開いた。
「本日の議題は、孤独対策と未返却テープ問題です」
出席者は、ミノル、レンチ隊長、枕司令官、醤油博士、 そして右手袋のササキさんだった。